大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和36年(ワ)128号 判決

判   決

千葉県山武郡大網白里町四天木甲一四八九番地

原告

藍野治子

右法定代理人親権者父

藍野昇

同親権者母

藍野きみ子

右訴訟代理人弁護士

半田和朗

右訴訟複代理人弁護士

木下達郎

千葉市今井町一〇六番地

被告

長谷川孝三

同所同番地

被告

長谷川倉吉

右被告両名訴訟代理人弁護士

関一二

右当事者間の、昭和三六年(ワ)第一二八号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、被告両名は、連帯して、原告に対し、金二五、八五〇円及びこれに対する昭和三六年五月二七日からその支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

二、被告長谷川倉吉は、原告に対し、金四三、九九三円及びこれに対する昭和三六年五月二七日からその支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

三、被告両名に対する原告のその余の各請求を棄却する。

四、訴訟費用はその全額を三分し、その一を原告の負担、その余を被告両名の連帯負担とする。

五、本判決は、原告に於いて、被告等に対する共同の担保として、金三〇、〇〇〇円を供託するときは、第一、二項について、仮に、これを執行することが出来る。

事実

原告訴訟代理人は、被告等は、各自、原告に対し、金一二一、四九六円及びこれに対する本件訴状が被告等に送達された日の翌日からその支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない、訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、被告倉吉は、家具商を営み、自動車(但し、小型三輪貨物自動車)(千六せ第三〇二五号)を所有し、之を自己の為めに運行の用に供している者であり、被告幸三は、右被告の子であつて、同被告の家族として、右営業に従事している者である。

二、原告は、昭和三三年八月一七日午後一時五〇分頃、自転車に乗車し、千葉県山武郡大網白里町南泉三、三一六番地先県道上を、白里海岸方面から大網駅方向に向い、道路右端(進行方向に向つて)を進行中、反対方面(大網駅方面から白里海岸方向に向つて)から時速約四五キロで進行して来た被告季三の運転に係る前記自動車によつて同所付近において、接触され、自転車もろ共にはね飛ばされ、左大腿部骨折等の傷害を蒙つた。

三、右事故は、被告季三が、酩酊して正常な運転を為し得なかつたに拘らず、敢えて右自動車を運転し、且前方注視の義務を怠つて、漫然約四五キロの速度で、進行した結果に因るものであるから、それは、全く、右被告の過失によつて惹起されるに至つたものである。

四、従つて、右被告季三は、右事故を発生せしめた者として、又、被告倉吉は、右被告の使用者兼右自動車の保有者として、原告が右事故によつて蒙つた損害の賠償を為すべき義務を負うて居るものである。(以下省略)

理由

一、被告倉吉が、家具商を営み、原告主張の自動車を所有して、之を自己の為めに運行の用に供していること、被告季三が右被告の子であつて、その家族であること、及び原告が自転車に乗り、被告季三が右自動車を運転して、昭和三三年八月一七日午後一時五〇分頃、千葉県山武郡大網白里町南今泉三、三一七番地(この地番は検証の結果によつて之を認めた)先県道上を、原告は、進行方向に向つて、道路右側を、白里海岸方面から大網駅方面に向つて、被告季三は、原告に反対方向の大網駅方面から白里海岸方面に向つて、それぞれ進行して居たこと、並に、同時刻頃、原告が、右同所付近に於て、左大腿部骨折等の重傷を負つたことは、孰れも、当事者間に争のないところである。

二、而して、(イ)(証拠―省略)を綜合すると、原告の乗車して居た自転車と被告季三の運転して居た自動車とが近接した際、同被告が、両車の衝突を避ける為め、急拠、そのハンドルを、進行方向に向つて、右側に切り、右自動車が右側方向に回転進行したことが認められ、(この認定を動かすに足りる証拠はない)、この事実と(証拠―省略)とを綜合すると、右自動車が右側方向に回転進行を終つた後、右自動車が右側方向に回転した地点付近の道路上に、原告が、その乗車して居た自転車から落ちて、左足を伸ばし、右足をまげて、尻もちをついた様な姿勢でうづくまり、その乗車して居た自転車は、左側ハンドルがサドル近くまで曲つたままで、右側(自転車の進行方向に向つて)の道路沿の生垣に突入して居たことが認められ、(中略)、(ハ)、又、(証拠―省略)を綜合すると、右自動車が、右側方向に回転進行した際、原告の左側腹部及びそれ以下の左側部分に正面乃至左側寄りの方向から打撃力が加えられ、その為め、原告は、乗車して居た自転車のサドル(原告は、サドルにまたがり、通常の方式及び状態で自転車に乗車して居たことが、同人の供述によつて認められる)から後方にずり落されて、道路上に落ち、右自転車は、若干走つて、前記生垣に突入したことが認められ、(被告本人及び証人(省略)等は孰れも、原告が、自転車もろともに転倒した旨の供述を為して居るのであるが、その各供述は、右各証拠に照し、措信し難く、他に、この認定を動かすに足りる証拠はない)、(ニ)、更に、この事実と右各証拠と当事者間に争のないところの前記原告の左大腿骨が骨折した事実とを綜合すると、右大腿骨の骨折は、右認定の打撃力が加えられた際に生じたものであると認めざるを得ないものであることが認められ、(右被告本人及び証人(省略)等は右骨折は、原告が自転車と共に転倒した際に生じたものである旨の供述を為して居るのであるが、右検甲第一乃至第五号証によつて認められるところの骨折の状態と之によつて推認されるところの、打撃力の加へられた方向と原告本人の供述とを綜合すると、右骨折は、原告が自転車と共に転倒した結果によつて生じたものとは認め難いので、右各供述は、孰れも、措借し難く、他に、この認定を動かすに足りる証拠はない)、(ホ)、而して、以上に認定の諸事実のあることを綜合すると、原告の受けた前記左大腿骨折の傷害は、被告季三が、その運転した前記自動車を右側方向に回転進行せしめた際に、之を原告の身体に接触せしめ、之によつて、その左大腿部に打撃を加えた結果によるものであると認定せざるを得ないものである。〔右被告本人及び右証人(省略)等は、右側回転によつて、原告との接触は、完全に、避け得られたし、又、接触によるショックも全然感じなかつたのであるから、接触の事実はないと云う趣旨の供述を為して居るのであるが、被告季三は、右自動車を運転し、右佐久間証人は、助手台に乗車して居た(この点は、右佐久間証人自身の証言によつて、之を認める)のであるから、正確に接触の有無を観察し得る様な位置には居なかつたものであると認められ、又、右高山証人は、ボディの中に居たのであるから(この点は、右高山証人自身の証言によつて之を認める)、これ又、同様に云い得るし、又ショックを感じなかつたのは、急激に、右方に回転した結果、同人等の身体の平衡が失われ、若干感覚に異状があつた結果によるものであると推測されるので、右各供述によつては、右認定を覆えすに足らないのであつて、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない〕。

三、然るところ、原告は、右接触は、被告季三が、酔払い運転を為し、且、前方注視義務を怠つた結果によつて生じたものであるから、それは、被告季三の過失に基因するものである旨を主張し、被告等は、之を否定し、右接触は、原告が、突然、道路右側から左側中央部に向つて進行して来た結果生じたものであるから、過失は、全部、原告にある旨を主張して居るので、案ずるに、

(1)、検証の結果(第一回)によると、本件道路(県道)は、幅員五、七四メートルある道路で、右事故現場付近に於ては、直線状を為して、高低はなく、甚だ見通しの良い道路であることが認められ、(但し、当時、右現場付近は舗装されて居らず、砂利道であつたことが、被告本人季三の供述によつて認められる)、

(2)、検証の結果(第一回)と原告本人の供述(第一、二回)とを綜合すると、原告は別紙見取図図示の位置にあるソバ屋珍万方を友達と共に出て、その前で、友達と別れて、前記自転車に乗車し、右珍万方前道路を横断して、右見取図図示の位置にある役場前に出て、進行方向右側の右見取図図示の位置にある神田屋商店に買物に行く為めに、同店に向つて、右道路右端を進行したのであるが、その頃小雨が降り出して居たので、稍々、下向きとなつて、進行して行つたこと、尤も進行を始めて間もなく、前方に被告季三の運転して居た前記自動車が反対方向から進行して来るのに気づいたが、道路右端を進行して居たので、右自動車が原告に接触する程近接することはあるまいと思い、前方を注視し続けることなく、安心して、稍々、下向きのまま進行を続けて、前記事故現場付近にまで至つたことが認められ、(この認定を動かすに足りる証拠はない)、

(3)、一方、前記認定の事実と(証拠―省略)とを綜合すると、被告季三は、約四五キロの速力を以て、前記自動車を運転し、前記道路の中央部分附近を進行して、現場附近に至つたのであるが、前記見取図図示の位置にある(ロ)点付近に至つたとき、反対方向からハイヤーが進行して来たので、(この点について、被告本人季三及び右証人(省略)は、右ハイヤーは、右自動車が更に進行した後に出会つたもので、右地点に於ては、出会つて居ないと云ふ趣旨の供述を為して居るのであるが、証拠調の結果と検証の結果とによると、右自動車が更に進行した後に出会つたハイヤーは、右認定のハイヤーとは別個のハイヤーであると認めるのが相当であると認められるので、右各証言は、孰れも、措信し難いものである)、之を避ける為め、右(ロ)点付近で、ハンドルを左に切つたところ、道路の左側に寄り過ぎ、右道路の左端(自転車の進行方向からすれば右端)を進行して来た原告の乗車して居た自転車に近接し、之と衝突する危険が生じた為め、之を避ける為め、右被告季三は、右見取図図示の位置にある(ハ)点の手前付近で、急速、ハンドルを右に切つたので、右自動車は、右側方向に向つて、急速に回転進行したことが認められ、(中略)、

(4)、而して、以上に認定の事実と前記認定の事実と(証拠―省略)とを綜合すると、右急速回転が為された際、右自動車の速力が前記認定の様な高速で、而も右自動車が三輪の軽貨物自動車であつた為め、(本件自動車がこの様な自動車であることは、弁論の全趣旨によつて、当事者間に争のないところであると認める)、右急速回転によつて、車体が大きくゆれ、その結果、車体左側の一部が、右(ハ)点附近に於て、原告の乗車して居た自転車のハンドル左側及び原告の身体の左下腹部並に左大腿部等に接触し、之によつて、原告に、前記傷害を加へるに至つたものであることが認められ、(省略)

(5)、而して、以上に認定の諸事実によつて、之を観ると、原告が(イ)、法規に違反して、右側を通行したことは、それ自体過失であり、(ロ)、又、前記道路は、前記の通り、直線状のそれで見通し良く、前方注視を継続して、何時にも対向車との接触の危険を避け得る体勢を維持して進行すれば、之を避け得たと思料されるに拘らず、右道路の右端を進行して居た為め、対向車との接触の危険性はないものと安心し、稍々、下向きの状態で進行して、右体勢をとらずに居り、その結果、前記接触事故が発生するに至つたものと認められるので、原告には、右二点に於て、過失があつたものと云ふべく、一方被告季三は、(イ)道路中央部分附近を前記高速で進行した為め、対向車と原告の乗車した自転車とに対する関係に於て、安全な退避を為すことが出来なかつた点に於て、過失があり、(ロ)、而も、本件道路は、右の様な直線状のそれであつて、被告季三は、右両車の進行して来ることを認識して居たのであるから、減速徐行して、何時にても、停車して、接触、衝突等の危険を防止し得べき体勢を維持すべきであつたに拘らず、之を為さないままで、進行を継続し、その結果、前記事故の発生を見るに至つたのであるから、被告季三にも亦右二点に於て過失があるものであり、従つて、右事故は、原告及び被告季三の双方の過失の競合することによつて、発生するに至つたものであると云はざるを得ないものであるところ、原告の乗車した自転車の進行方向には変更がなく、その進行方向を変更したのは、被告季三の運転した自動車であつて、(被告等は、原告が、その進行方向を変更し、突然、道路中央に向つて進行を始めた旨を主張し、被告本人季三及び前記証人(省略)等は、その趣旨にそふ供述を為して居るのであるが、それ等の供述は、措信し難く、他に、右事実のあることを認めるに足りる証拠はないのであるから、被告等主張の右事実は、之を認めるに由ないところである)、而も、右道路が前記の様な直線状のそれであることに鑑み、その進行方向の変更が為されなかつたならば、右事故の発生することはなかつたものと認められるので、双方の過失の度合を比較考慮すると、被告季三の過失を以て、原告のそれよりも重いとせざるを得ないものであり、而して、その責任負担の割合は、前記認定の諸事実のあることと、原告に於て、右側進行と云ふ法規違反の所属を為さなかつたならば、前記事故の発生はなかつたものであると考えられる点を考慮し、(成立に争のない甲第二号証の一によると当時原告が満一四才に達して居たことが認められるので、原告は当時、この様な点について、責任能力を有したものと認めるのが相当であると認める)。原告に於て三分の一、被告季三に於て三分の二の割合とするのが相当であると認める。尚、原告は、被告季三の過失について、右認定の外に、酔払ひ運転を為した過失がある旨を主張して居るけれども、之を認めるに足りる証拠はないのであるから、(前顕甲第一号証には、被告季三が泥酔運転を為した旨の記載があるが、この記載は、被告本人季三の供述に照し、措信し難く、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない)、右事実のあることは之を認めるに由ないところであり、又、被告等は、原告の過失について、右認定の外に、原告が進行方向を突然変更して、道路中央に向つて進行し始めた過失がある旨を主張して居るけれども、その事実を認め得ないことは、前記の通りであるから、双方の右各主張は、何れも、理由がないことに帰着する。

四、然る以上、被告季三に於て、原告が右事故によつて蒙つた損害に対し、その三分の二について、その賠償を為す責任のあることは、多言を要しないところである。

五、而して、被告倉吉が、前記自動車の保有者であることは、冒頭認定の事実によつて、之を認定し得るところであるから、同被告が、自動車損害賠償保障法によつて、原告が右事故によつて蒙つた損害の賠償を為すべき責任のあることは、多言を要しないものであるところ、(原告は、この点について、民法第七一五条の規定を併せ適用のあることを主張して居るけれども、自動車事故による損害賠償責任については、右法が民法に優先して適用せられるものと解されるので、本件の場合に於ては、民法の右規定は、その適用が排除されると解するのが相当であると認める)、原告に前記過失があつて、責任の三分の一は原告に於て、之を負ふべきものであることは、前記認定の通りであるから、被告倉吉の負ふべき責任は、被告季三と同様に三分の二の割合であると云はなければならないものである。

尚、右被告倉吉と被告季三との原告に対する右責任負担による損害賠償の義務は、不真正連帯の関係にあると認められるので、右両者の中の何れかが為した義務の履行が、その限度に於て、当然に、他の一方の義務の消滅を伴ふものであることは、多言を要しないところである。

被告倉吉は、被告季三は、海水浴に行く為めに、右自動車の運転を為したもので、被告倉吉の運行の用に供したものではないから、被告倉吉には責任はないと云ふ趣旨の主張を為して居るのであるが、保有者は、運転者の自動車の運転が、自己の管理を離脱して居ない以上、保有者としての責任を免れ得ないものであるところ、被告季三は、被告倉吉の承認を得て、右自動車の運転を為したものであることが、被告本人季三の供述によつて窺知されるので、被告季三の右自動車の運転は、被告倉吉の管理を離脱して居なかつたものであると認めざるを得ないものであるから、被告倉吉は、その保有者としての責任を免れることの出来ないものであり、従つて、右被告の右主張は理由がないことに帰着する。

六、仍て、原告が、右事故によつて蒙つた損害の額について、按ずるに、

(イ)、原告が、右事故によつて、前記傷害を受けた結果、即日、川越病院(大網診療所)に入院し、その後、同年九月二二日、山武郡南病院に入院し、翌三四年八月四日まで入院して居たこと、及び退院後、左足膝関節治療の為め、(左膝関節が硬直して、くつ伸を為し得なくなつたので、その治療の為め)、マツサージ師及び接骨院に通つたことが、(証拠―省略)によつて、認められ、(この認定を動かすに足りる証拠はない)、而して、法定代理人の供述(証拠―省略)を綜合すると、右の結果、左記各額の費用を要したことが認められるので、(この認定を動かすに足りる証拠はない)、原告は、之によつて、同額の損害を蒙つたものと云ふことの出来るものである。

(1)、金一〇、三六三円。

右川越病院に於ける入院費用。

(2)、金四五、二〇〇円、

右山武郡南病院に於ける入院治療費。

(3)、金五六、四五六円。

右山武郡南病院に於ける給食費。

(4)、金一〇〇円。

右病院から交付を受けた診断書の代金。

(5)、金二九〇円。

右病院を退院した際の自動車代金。

(6)、金二四、〇五〇円。

マツサージ師訴外内山かほるに受けた合計四八一回分のマツサージ治療代金。

(7)、金一三、三〇〇円。

後藤接骨院に於て受けたマツサージ治療代金。

(8)、金八五〇円。

松葉杖代。

合計金一五〇、六〇九円。

尚、原告は、以上の外に、更に、通院費金七、五〇〇円を要した旨を主張し、通院費を要したことは(証拠―省略)によつて、之を認め得るのであるが、その額を確定し得る証拠がないので、右額の通院費を要したことは、之を認めることが出来ない。

(ロ)、而して、原告が前記傷害を受けたことによつて、精神上の苦痛を蒙つたことは、多言を要しないものであるところ、検甲第一乃至第五号証によつて認められるところの骨折の部位程度と、この治療の為め、原告が約一年間入院を余義なくされ、更に、退院後も、マツサージ治療の為め、一年間近くもマツサージ師及び接骨院に通つたこと(この点は(証拠―省略)によつて之を認める)、及び原告本人の供述によつて認められるところの、右骨折部には、骨折の全治後も肉が上らず、骨に皮膚が直ちに接着して居て、左大腿部に相当大なる傷痕が出来、この傷痕は、将来消滅する見込のないこと、並に原告が未婚の若い女性であつて、右の様な傷痕が将来長く残ることは、甚だしい苦痛であつて、場合によつては、結婚にも支障の生ずる虞れがあること、尚、左足は未だに、不自由であること等の諸事情を綜合すると、右精神上の苦痛を慰藉するに足りる慰藉料の額は、金三〇〇、〇〇〇円と算定するのが相当であると認める。

七  然る以上、被告両名は、連帯して、原告に対し右各財産上の損害額の三分の二の合計金一〇〇、四〇六円及び慰藉料額の三分の二金二〇〇、〇〇〇円の支払を為すべき義務があると云はなければならないものである。

然るところ、被告季三は、その主張の日に、原告の法定代理人である親権者父藍野昇との間に於て、その主張の示談を為して、その主張の支払を為した旨を主張し、原告は、之を争つて居るので、按ずるに、(証拠―省略)を綜合すると、被告季三は、前記認定の事故を発生させたことによつて、東金区検察庁に於て検察官の取調を受けたのであるが、その際、検察官の勧告によつて、原告の法定代理人である親権者父藍野昇との間に於て、慰藉料として、金二五、〇〇〇円を支払ひ、入院中の治療費は、原告が全治退院するまで之を負担すると云ふ約定で、一旦、示談の話合が出来さうになつたのであるが、その後、右昇から入院中の給食費をも右被告に於て負担せられ度き旨の申出が為され、右被告が、食事は、入院中も平素と同様に必ず之をとるものであるから、その代金負担の要求には応じ難いと云ふ理由で、之を負担することを拒絶した為め、示談は、成立するに至らなかつたのであるが、その後、更に、訴外板倉喜平次、同佐久間清之進、同高沢三蔵等が心配して、仲に入り、示談の斡旋を為した結果、右被告主張の日に至り、右昇と被告季三との間に於て、入院治療費は、被告季三に於て、金額を支払ふ、給食費は、同被告に於て、之を負担しない代りに、同被告は、慰藉料及び見舞金として、金五〇、〇〇〇円を支払ふ、以上を以て、原告と被告季三間の前記事故による一切の関係は、解決済みとし、原告は、右以上の請求は為さない旨の約定を以て、示談が成立するに至つたこと、(但し、右昇が右示談を為すについては、その妻の同意を得て居るものである)、そして、被告季三は、右同日、右慰藉料及び見舞金の内金として、金二五、〇〇〇円の支払を為し、その後、右約旨に従つて、川越病院に於ける入院治療費金一〇、三六三円、(前記認定の(1)の治療費)、山武郡南病院に於ける入院治療費金四五、二〇〇円(同(2)の治療費)の各全額の支払を為したことが認められ、(中略)他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

原告は、右示談による契約は、その主張の各無効原因の存在することによつて、無効のそれであり、仮に然らずとしても、その主張の理由によつて、詐欺による意思表示に基くものであるから、取消し得べきものである旨を主張しているのであるが、之を認めるに足りる証拠は全然ないのであるから、右契約が無効のそれである旨の主張は、全部、理由がなく、又、右契約が取消し得べきそれであることを理由として原告の為した右契約を取消す旨の意思表示は、無効のそれであると云わざるを得ないものである。

而して、原告は、山武郡南病院に於ける給食は、治療の為めに為されるそれであるから、給食費は、当然に治療費に包含されるものであり、従つて、それは、被告季三の負担に帰するものである旨を主張して居るのであるが、右給食費は、右示談に於て被告季三の負担から除外されて居て、同被告の負担に属しないものであることが明かであるから、同被告に於て、その支払の義務のないものであり、従つて、原告の右主張は理由がなく、又、松葉杖代金八五〇円が治療代に包含されることは、右被告が之を認めて争わないところであるから、右代金は、右被告の負担に帰するものである。その余の財産上の損害は、入院中の治療費に包含され得ないものであるから、右被告に於て、之を負担する義務のないものである。

以上の次第であるから、被告季三に於て支払を為すべき義務のある額は、慰藉料及び見舞金の残額金二五、〇〇〇円及び松葉杖代金八五〇円合計金二五、八五〇円である。

八、而して、原告は、財産上の損害については、本訴に於て、前記(1)及び(2)の損害を除外して、その請求を為して居るのであるから、被告倉吉が、本訴に於て、その支払を為すべき義務のある損害賠償額は、前記(3)乃至(8)の損害額の三分の二、即ち合計金六三、三六四円であるところ、右被告季三は、右(1)及び(2)の損害額については、本来その各三分の二についてのみ、その責任があるに拘らず、前記契約に基いて、その全額の支払を為したのであるから、その支払によつて、被告倉吉に対する関係に於ては、原告は、その各三分の一を利得したことになると云い得るので、同被告に対する関係に於ては、その債務中から、その合計額金一八、五二一円の控除を為すのが相当であり、従つて、その額は、結局、金四四、八四三円となるものであり、又、慰藉料額については、原告は、本訴において、前記金額の内金二五、〇〇〇円の支払を請求して居るに過ぎないので、結局、被告倉吉が、本訴に於て、支払を為すべき義務のある額は合計金六九、八四三円となるものである。而して、原告の本訴請求中、被告季三に於て支払義務のある額は、前記の通り、金二五、八五〇円であるから、右額までは、被告倉吉は、被告季三と連帯して、その支払を為すべき義務のあるものである。

九、而して、本件訴状が被告等全員に送達された日の翌日が昭和三六年五月二七日であることは、当裁判所に顕著な事実であるから、原告の本訴請求中、被告両名に対し、連帯して、金二五、八五〇円及び之に対する昭和三六年五月二七日からその支払済に至るまでの民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求にる部分、及び被告倉吉に対し、右元金を控除した残額金四三、九九三円及び之に対する右両日からその支払済に至るまでの同一の割合による損害金の支払を求める部分の請求は、正当であるが、その余は、その支払を求めることが出来ないから、その余の支払を求める部分の請求は、孰れも、失当である。

一〇、仍て、原告の本訴請求は、右各正当なる部分のみを認容し、その余は、孰れも、之を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を、各適用し、主文の通り判決する。

千葉地方裁判所

裁判官 田 中 正 一

見取図(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例